- コイの放流が度々問題になるワケとは? 法令と実状のギャップも 投稿日 2022年4月1日 17:00:14 (TSURINEWS)
日本人が最も目にする機会の多い魚・コイ。養殖や放流が盛んに行われてきたことの賜物ですが、しかし現在においてはその放流は「慎むべきもの」という認識となってきています。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
コイの放流が「炎上」
三重県伊勢市のとある河川で先日「コイの放流」が行われたのですが、そのことがいま全国的な話題になっています。
コイの放流を行ったのは、その河川の浄化活動などを行っている地元団体など。かつて子どもたちが遊んだきれいな川を取り戻すため、その象徴としてコイを放流した、というのが実施理由と見られています。
しかし、このニュースが報じられるとすぐに、ポータルサイトやSNSで強い非難が巻き起こりました。伊勢市の担当者も懸念を示す事態にまで発展しているのですが、いったいなぜなのでしょうか。
コイの放流はなぜいけない?
童謡に歌われるなど、我が国でも古くから親しまれ愛される魚であるコイ。それもあってか「コイが棲んでいる=きれいな川」というイメージは、年配の世代を中心に根強く残っているものだと思われます。
しかし実は我が国において、在来のコイはもともと琵琶湖周辺にしか生息していない魚。その他の地域に生息しているコイは、琵琶湖周辺やあるいは中国など他の国から食用などで移入された「外来生物」です。古くからそこに生息しているとも限らず、近年人の手で移入された個体群も非常に多く見られます。
そして、そんな彼らは雑食性でかつ大食漢。おとなしそうな見た目に見えますが、小魚から水草まで他の生き物を何でも食べ、小さな水域ではあらゆる生物を食べ尽くしてしまうことすらあります。
そうなったときに残るのは「コイの棲めるような清流」ではなく「コイしか棲んでいない貧弱な水域」ですが、そのような場所は我が国に非常に多く見られます。我が国における代表的な外来魚であるブラックバスよりもその害は大きいとすら言われています。
交雑も問題に
この他、コイに限らず放流という行為は、もともとそこに生息している個体群との交雑を起こしてしまうため、生物学的にはやめるべきことであるという認識が一般的です。
そもそも今回放流されたものには「錦鯉の稚魚」が含まれているようです。ニシキゴイは色の明るさから真っ先に水鳥の餌となってしまい、生き残る率は低いと言われています。放流されるコイたちにとってすら、迷惑な行為といえるかもしれません。
法令とのギャップ
しかし残念ながら、今回のようなコイの放流は今も全国各地で行われています。それだけ前記の「コイがいる川は清流」「コイが泳ぐ理想的な川」というイメージは強いのでしょう。
またそれだけでなく、放流を行わないといけない理由がある地域もあります。我が国の法律では「漁業権魚種は殖やす努力を行わないといけない」ことが規定されているため、コイが漁業権魚種として指定されている地域ではルールに従って放流されています(コイヘルペスウイルスの問題もあったため、放流量自体は減っていると考えられますが、放流の義務は残っています)。実情に対し、法令が追いついていない状況だといえるでしょう。
イメージの問題も
コイはブラックバスやブルーギルと行った特定外来生物と比べて「環境を悪化させる外来魚」としてのイメージは弱く、それが「コイの放流が無くならない」最大の理由だと考えられます。
放流を行う人々は「良かれと思って」やっているはずで、それを責めるのはかわいそうな気もします。しかし行っていることはれっきとした環境破壊行動であり、「良くないことなのだ」という認識が広まっていかないといけません。今後メディアでも「コイの放流が行われたが、問題だ」という論調の報道が増えていくことを願いたいと思います。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>
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